今回は私がゴルフ場開発のための土地交渉を開始して約半年が経ち、ついに先日初めて売買契約を締結した時の事をお話ししておきたいと思います。
初めての契約でしたが、契約締結に至るまで、いくつかのクリアしなければいけない壁もありました。
しかしながら私たちと地権者様との利害が一致して同じ目的に向かい、共に壁を乗り越えて無事に契約を締結したと感じています。
それではその内容を説明します。
目次
【相続登記】
まずは、その地権者様にもほかの地権者同様、私たちの目指すゴルフ場開発の内容を説明して、その方の所有するどの土地がどれくらい申請予定地に入っているかを説明、協力してもらえるように話して、賃貸か?売買か?それぞれの場合の価格も伝えて、見積もりも出して検討してもらうことになりました。
その方は、賃貸で年間の賃料を毎年受領する場合、いずれ自分たちの子供たちへ相続する際に面倒な手続きが生じること。
加えて、今回の該当する地目には宅地もあり、もうだれも住んでいない廃墟となった家屋も建ったままになっており、解体するのにもお金がかかる。
このような理由で、売却を検討することとなりました。
しかし、ここでひとつ乗り越えなければいけない大きな壁があり、その方本人には売却の意思があっても、
今回の該当する土地はその方の父親名義のままになっていたのです。
その方の父親はすでに他界しており、相続登記をしなければいけないのですが、その方には他に4人のご兄弟がいて、調べてみるとその土地の法廷相続人は全員で9名いることがわかりました。
他の8名の方からその土地をその方一人がすべて相続するという承諾を得なければいけません。
一般的にはこの段階でクリアするために時間を要するようですが、幸いにもその方は8名の方々に説明をして納得の上で速やかに承諾を得られました。
詳細についてはわかりませんが、お話を聞く限り、
その方は父親が亡くなってからずっとおひとりでその土地の固定資産税を支払ってきていた
ようで、そのあたりが他の方の理解を得られたのではないかと推測しています。
法的に必要な書類や申請等の手続きは司法書士の先生にお願いし、その方の相続は無事に終了しました。
【委任状とテンプレート】
土地の売買に関しては契約時に土地の権利書を預かったりすることもあり、必ず司法書士の先生に立ち会っていただくようになっています。
その場合に、買主が権利者、売主が義務者となって司法書士の先生との間で委任状を交わすことになります。
その一部を紹介します。
(委任状テンプレート)
委任状
住所 〇〇
司法書士 〇〇
私は、上記の者を代理人と定め、下記不動産につき次の登記申請に関する一切の権限、および登記識別情報通知書[i]の受領に関する権限を委任します。
記
1.登記の目的 所有権移転
1.原因 令和〇年〇月〇日 売買
1.権利者 住所〇〇 氏名〇〇
1.義務者 住所〇〇 氏名〇〇
1.申請情報とともに提供した添付情報の原本還付請求[ii]及び受領に関する一切の件
1.復代理人[iii]選任に関する一切の件
1.本登記の申請の取下げ、登録免許税の還付金還付請求及び再使用証明の手続き並びに受領に関する一切の件
1.本件登記に係る登記識別情報の暗号化及び復号[iv]に関する一切の件
1.登記識別情報及び登記完了証[v]の受領に関する一切の件
令和〇年〇月〇日
住所〇〇
氏名〇〇
不動産の表示
所在 〇〇
地番 〇〇
地目 〇〇
地籍 〇〇
以上
なかなか聞きなれない言葉のオンパレードでしたので、注釈を付け加えておきます。
[i] 「登記識別情報通知書」
以前の「権利書」「権利証」などと呼ばれる書類。土地や建物の登記名義人となった人ごとに定められ、登記名義人となった人のみに通知される。登記識別情報は抵当権の設定登記をする際、抹消登記をする際、不動産の所有権移転登記をする際などに利用する。
[ii] 「原本還付」
手続き申請時に提出した書類の原本を返却してもらうこと。原本には「写しではない正式の文書」という意味合いがあり、主にコピーと区別するために使われる言葉。原本還付をしないと書類は返却されないので、その他の相続手続きに使用できなくなり、改めて書類の取得と作成をしなければなりません。
[iii] 「復代理人」
代理人が自分の権限内の行為を行わせるため、自分の名で更に代理人を選任して本人を代理させることであり、代理人によって選任された代理人のこと。
[iv] 「登記識別情報の暗号化及び復号」
登記識別情報を登記手続きに使用する際には、オンライン申請の場合は登記情報識別の12桁のパスワードを暗号化して申請情報と合わせて法務局へ送信します。
申請人は、登記名義人であることを証するために登記識別情報を提供する必要があるが、そのためには、暗号化されたままの、「本人にしか知ることのできない情報」を復号し、「本人以外の者が知ることができる情報」にする必要がある。
このような感じで、土地の売買となると大切な「権利証」や「登記識別情報通知書」や「登記完了証」などをお預かりするようなケースがあるので、重要なことは司法書士の先生にお任せする方が得策という事ですね。
【登記原因証明情報】
次に「登記原因証明情報」なるものを司法書士の先生に提出しました。
これは。「登記の目的」と「登記の原因」を明記し、買主が権利者、売主が義務者となり司法書士の先生が事実確認し内容を作成し管轄の法務局に提出するものです。
(登記原因証明情報テンプレート)
登記原因証明情報
1.登記申請情報の要項
⑴登記の目的 所有権移転
⑵登記の原因 令和〇年〇月〇日 売買
⑶当 事 者
権利者 住所 氏名
義務者 住所 氏名
⑷不 動 産 下記不動産の表示のとおり
2.登記の原因となる事実又は法律行為
⑴売買契約
〇〇は〇〇に対し、令和〇年〇月〇日、本件不動産を売った。
⑵所有権移転時期の特約
売買契約には、本件不動産の所有権は売買代金の支払いが完了した時に〇〇に移転する旨の所有権移転時期に関する特約が付されている。
⑶代金の支払い
〇〇は〇〇に対し、令和〇年〇月〇日、売買代金全額を支払い、〇〇はこれを受領した。
⑷所有権の移転
よって、本件不動産の所有権は、同日、〇〇から〇〇に移転した。
令和〇年〇月〇日 〇〇地方法務局 〇〇支局 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(権利者) 住所 氏名
(義務者) 住所 氏名
不動産の表示
所在
地番
地目
地籍
当職は、上記に記載した事実を確認し、不動産登記法所定の登記原因証明情報を作成したため、司法書士法施行規則第28条の規定により記名押印する。
住所 (登録番号〇〇) 司法書士〇〇
※「司法書士法施行規則第28条」司法書士は、その作成した書類(法第三条第一項第六号及び第七号に規定する業務に関するものを除く。)の末尾又は欄外に記名し、職印をおさなければならない。
【農地転用】
また、
今回の契約で忘れてならないのは、売買する土地の中に地目が「畑」になっている場所があることでした。
上記で紹介した「委任状」「登記原因証明情報」のテンプレートはいずれも「登記の目的」が「所有権移転」で「登記の原因」が「売買」のケースでした。
これにもう一つのパターンとして
「登記の目的」が「条件付所有権移転仮登記」で「登記の原因」が「売買(条件 農地法第5条の許可)」が加わります。
少しややこしい話ですが、これは、今回売買する農地である「畑」をゴルフ場用地の「雑種地」に変更する際に必要な手続きとなります。
この点について詳しくお話していきます。
(農地法第5条について)
農地法第5条とは「農地の所有者以外の者が、新たに権利の設定・移転を受け農地を農地以外のものにする(転用)場合には、知事の許可を受けなければなりません。なお、許可を受けないでした権利の設定・移転は、その効力を生じません。
この農地法第5条により、地権者から地目が農地になっているところを私たちが賃貸や売買をする場合には、必ず農地転用の手続きが必要となるのです。
それだけ、わが国日本は農業を守っていきたいという意向ではないかと推測しています。
(農地転用のタイミング)
不動産登記法が定める地目変更のタイミングは「地目または地籍の変更から1か月以内」となっています。
つまり、農地転用の際の地目変更は、現況が農地でなくなってから1か月以内に行う必要があります。
これに違反した場合には、10万円の過料を科されることがあります。
(農地転用と開発行為許可は原則同時申請)
「農地転用」は「開発行為の許可」がなければ許可されません。
「開発行為許可」も「農地転用」の許可がなければ許可されません。
このため、『農地法上の「農地転用」と都市計画法上の「開発行為」については、同時申請・同時許可が原則』とされています。
具体的な流れとしては以下のとおり。
・農地は転用の見込みがあるかを農業委員会にて確認。
・開発行為はそれぞれの申請書類を行政各課に提出し申請。
【農地の仮登記】
最後に農地の仮登記について説明しておきましょう。
仮登記とは登記の予約制度のようなものです。
当事者間で売買の約束をしているが農地法の許可取得に時間がかかりそうなので所有権移転登記がまだできていない。
そこで、農地法の許可をもらうことを条件に所有権を移転してもらう仮登記をすることができるというものです。
いかがですか?
今回の契約の際には地権者から
「いつかいつかと待ち望んでいた、契約までの時間が長く感じていた」
との率直な意見も聞かれました。
契約後に担当顧問の方と廃墟となりまわりは雑木に覆われて道も無くなっている現地を見たときにこう感じました。
この土地は確かに本人にとっては足かせにしかなっていなかったに違いない。今回の開発の話で地権者は肩の荷が下り、私たちは目的達成の為にまた一歩進むことができた。
これは双方にとって利のあることで、まさにWinWinの関係ではないだろうかと。
必ず最後までやり遂げていきたいと気持ちを新たにした契約第一号でした。
それでは今日も素敵なゴルフライフを!
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