国内2大ゴルフ場運営会社社長のインタビュー記事について

元ゴルフ場支配人の独り言

今,日本国内ではアコーディア・ゴルフ(以下AG)とパシフィックゴルフマネジメント(以下PGM)という2つの会社が最大級のゴルフ場運営会社として君臨しています。

今回はその会社のそれぞれのトップの雑誌に掲載されているインタビュー記事についてゴルフ場現場の人間の立場から考察してみたいと思います。

 

※『2021年7月3日発刊の週刊ダイヤモンド』に掲載されていた記事を抜粋しています。

 

目次

【ゴルフをもっとカジュアルにど真ん中のニーズを取りにいく】

AGの望月智洋社長のインタビュー記事

私たちはゴルフをもっとカジュアルに、そして身近にしていくということにずっと取り組んできた。

伝統的なゴルフ場はしきたりがいろいろあって、初心者ゴルファーにとって、それは大きなハードルになっていると考えるからです。

一般的なサービス業のように、例えばセルフチェックイン機でさっと入れるように誘導するなど、初めてのお客様でも気軽にサービスできるような工夫をしてきた。

気を付けているのが、ビジターの方も快適に過ごせるようなゴルフ場のホスピタリティ。

ゴルフ業界として、コロナ過をきっかけに浮上した大きな波を一過性のものにしてはならない。

初心者ゴルファーである若い世代とベテランゴルファーの感覚は、相当違うと感じる。

特に若い現役世代にゴルフをしてもらうためには、いろいろなサービスをそぎ落としてシンプルな形にし、コース管理に重点を置いてゴルフの本質的な楽しさを体験してもらおう。

お客様が求めるリーズナブルな価値を提供したい。

私たちのグループは業界一の169コースを運営している。

特定の年齢層にエッジを立てて訴求するよりも、ユニバーサルサービスとして顧客のニーズのど真ん中を取りにいきたい。

コストパフォーマンスでは他社に勝っていると思う。

経営努力によってコストを抑えているからです。

今、時間を有効活用できる早朝プレーや薄暮プレーが非常に人気を集めています。

一般的には朝から夕方までお客様を入れると、コース管理の難易度が高くなります。

しかし、私たちはコース管理に一日の長があるため、早朝と薄暮の予約枠を厚めに取っている。

これが多様なニーズを受け入れて、ゴルファーの裾野を広げていくことにつながっています。(談)

 

 

【女性と若年層の取り込みにはスループレーの普及が鍵】

PGMの田中耕太郎社長のインタビュー記事

全般的なゴルファー人口を増やす今後のキーポイントは、女性と若年層にある。

女性と若年層ゴルファーを増やすには、いろいろな施策があり得ますが、スループレーの普及は大きなポイントの一つだと思います。

例えば首都圏エリアでゴルフをする場合、ハーフプレー、休憩、ハーフプレーという通常のプレースタイルだと、ゴルフ場での滞在時間が当然長くなる。

ゴルフ場からの帰りは渋滞に巻き込まれて、結果的にはゴルフをするのに丸一日かかってしまうケースが多くなります。

これを嫌がる若い世代のゴルファーは少なくない。

昼食などの休憩を挟まないスループレーは、1日の時間の有効活用につながります。

しかし、現状はスループレー普及を良しとしないプレーヤー層もたくさんいらっしゃるのに加え、ゴルフ場にとって売上単価が落ちるデメリットもあります。

そういう課題を乗り越えないと、スループレーの普及はなかなか進まない。

しかし中長期的に考えれば、若年層のゴルファーを増やす大きなキーポイントに確実になってくると思います。

また女性ゴルファーの増加に向けては、別の課題があります。

もともと日本の多くのゴルフ場のクラブハウスは、女性をたくさん受け入れようという施設構造になっていません。

女性用のロッカールームやお風呂のスペースが、男性用に比べて極めて狭いのです。

しかし、女性用の施設を拡張したり改修したりするのは、莫大な費用がかかるためそう簡単にはできない。

そんな中でも、せめて女性が快適にプレーできるようなオペレーションの体制は整えていく必要があります。

例えば、レディースティの増設やレストランメニューの改善などで対応していきたい。

 

以上。

 

この2つの会社は国内に多くのゴルフ場を運営しており、それらを一括管理しています。

それゆえ、この2つの会社のトップの意見を考察することで、ゴルフ業界の現状と未来が見えてくるのではないかと思います。

 

【伝統的なしきたり】

「伝統的なゴルフ場はしきたりがいろいろあって、初心者ゴルファーにとって、それは大きなハードルになっていると考える」

とAG社長。

これは例えば、ゴルフ場にあるドレスコードや独特な風紀のような事ではないでしょうか?

ゴルフ場には今でもよく『ゴルフ道』といわれるように、ゴルフをする際には若者には厳しいとすら感じる雰囲気があります。

紳士淑女のスポーツ・大人の社交場・会員制の高級倶楽部などの認識があり、とても敷居の高いイメージがあります。

それは初心者にとっての壁であるのと同時に古くからのゴルファーにとってはステイタスでもあるのです。

選ばれた者にしかそこで過ごすことが許されない空間。

ですが、そのようないわゆる名門と呼ばれるゴルフ場はめっきり少なくなりました。

バブル崩壊後、ゴルフ場が経営破綻を繰り返したのは、預託金でゴルフ場を開発して一部の選ばれた人達だけを相手にしたビジネスモデルが終焉を迎えた事を物語っています。

それから、民事再生や会社更生法により、負債を整理したのちに再生を果たした後には、敷居を低くして、ビジターにも門戸を開き、多くの人にプレーしてもらえるようにカジュアル化を図ってきました。

それが時代のニーズに合っていたのでしょう。

これからはドレスコードや独特な風紀も時代に合わせて変化していく事でしょう。

時代に合わせた変化、これが企業存続のカギとなっている事は間違いないですね。

 

【誰でも気軽に行けるゴルフ場】

「初めてのお客様でも気軽にサービスできるような工夫をしてきた。」

とAG社長。

「全般的なゴルファー人口を増やす今後のキーポイントは、女性と若年層にある」

とPGM社長。

ひと昔前よりカジュアルになったとはいえ、ゴルフ場に行くにはやはり少し準備が必要で、テーマパークのような気軽さはありませんね。

ゴルフプレーをするという目的をもって入場するわけですから、もちろんゴルフが出来なければいけませんし、ある程度のゴルフに対する知識を持っている必要はあります。

ルール・マナー・エチケット」は座学よりも実践で身に着ける方が一番はやいように思えますし、最初は誰でもある程度のベテランゴルフファーと一緒にゴルフ場には行くものです。

ゴルフプレーに関しては教えてもらえても、ゴルフ場のクラブハウスに入って、クラブを預け、チェックインをして、ロッカーに荷物を預け、着替えをして、準備をしてスタート地点に立つまでは、初めて一人で行ってはなかなかスムーズに出来るのもではありません。

そこで、初めてゴルフ場に来た人にでもわかりやすい動線や、わかりやすい案内が必要であると考えます。

AG社長によると、セルフチェックイン機による簡単チェックインとありますが、これも実情は専用の会員カードか事前に専用のQRコードをもっている人しか利用する事ができず、今でもそのほとんどは署名カードに必要事項を記載してフロントにて処理してもらうシステムになっています。

セルフチェックイン機ももっと汎用性を広げる事が必要ではないでしょうか?

 

【ゴルフ場のホスピタリティ】

「ビジターの方も快適に過ごせるようなゴルフ場のホスピタリティ」

とAG社長。

これは付け加えるとすると、「メンバーだけではなく、ビジターの方も快適に過ごせるようなゴルフ場のホスピタリティ」という表現になるかと思います。

前述したとおり、ゴルフ場はその歴史上、会員制の倶楽部運営からスタートしているので、主にメンバーホスピタリティに重点をおいたサービスを追求してきました。

ゴルフ場は大人の社交場という雰囲気があり、知っていて当然というマナーも存在して、ドレスコードを含めて今の時代にはそぐわないと感じるものもあるのは事実です。

先日、社内の会議で「食事するときの帽子はとるべきか」という事が話題になった時の事です。

私は失笑しながらこう答えました、「食事中に帽子をとるのは当たり前でしょう、それは小さいころに親に教えられたしつけであり、常識であり、見た目にもお行儀が悪いじゃない」と。

これに賛同する同じ世代の人がいれば、「えっ、なんで食事中だからと言って帽子をとらなければいけないの?」「そんなこと親に言われたことない」という若い世代の意見であったり、「女性は帽子をとるとヘアーの乱れが目立ったり、メイクの境界が浮き出たりして嫌なんですよ」という女性の意見もありました。

なるほど、自分の中では半ば常識と考えていたことが今はそうではないのだと気づいた瞬間でした。

このように、時代は変化して、違う時間を過ごした人の感覚も変化しているのです。

古いもの、新しいものが正しい、間違っている、合っている、合っていないと不毛の議論をするよりは、人それぞれに対応してカスタマイズできて、多くの人にもフィットするホスピタリティをこれからは追求していく必要があると考えます。

 

【ショックドクトリン】

「コロナ過をきっかけに浮上した大きな波を一過性のものにしてはならない」

とAG社長。

時代の変わり目というのは、なにかのきっかけで一気に加速すると言われています。

今回のコロナ過がそれにあたるといのは多くの識者が口にしています。

そして、平時だと出来ない事が、言い方はわるいですが、混乱時に乗じて変革を強行するというのは、理解できない話ではないですね。

ここでいう、大きな波というのは、新規ゴルフファーが増えてきたという意味だと理解します。

感染拡大防止のために外出を自粛するように要求される雰囲気の中で、ゴルフ場は野外でのスポーツで安心安全だという認識のもと、これまでゴルフをしていなかった人たちが、この機会に新たに始めたり、以前ゴルフをやっていて最近やっていなかった人たちが復活したりという現象が業界では追い風のように起きています。

一過性ではなく、継続していくという事は、これらの新規ゴルフファーを囲い込んでいくという事でしょう。

そのためにはこれまでのサービスを見直して若い新規ゴルファーにフィットするゴルフ場運営にシフトしていく必要があるという事でしょう。

 

【感覚の不一致】

「初心者ゴルファーである若い世代とベテランゴルファーの感覚は、相当違うと感じる」

とAG社長。

「スループレーの普及は大きなポイントの一つだと思います ~中略~ ハーフプレー、休憩、ハーフプレーという通常のプレースタイルだと、ゴルフ場での滞在時間が当然長くなる ~中略~ これを嫌がる若い世代のゴルファーは少なくない」

とPGM社長。

今のゴルフ場で働く人たちの共通の悩みではないでしょうか?

初心者ゴルフファーには「ゴルフとはこういうものである」という認識が少ない傾向が、かたやベテランゴルフファーには「ゴルフとはこうあるべきである」という固定観念がありすぎる傾向があります。

この両者の違いは、ベテランゴルファーからの「最近の若いやつらは・・・」という表現にも顕著に表れています。

いつの時代もその「若いやつら」が新しい時代を作ってきているという事を忘れているように感じます。

ベテランゴルファーたちも、かつては自分たちもその「若いやつら」の一員であったはずですが、ゴルフに関してはいわゆる「しきたり」というものを正しく伝承していく事が美徳と思われているとことがあり、二言目には「自分たちの若いころは先輩に厳しく教えられたものだ」と言い、自分たちも厳しく教える事が正しいと信じ込んでいるのです。

そのことが、若い感覚をもったゴルファーの創出を阻んでいることにもなっているように感じます。

何事も最初が肝心だと感じる事があります。

私も初めてゴルフをしたことの事をいまでも覚えていますが、初めはこれはやってはいけない、これはやらなければいけない事は、プレーをしながら教えられながら覚えたものでした。

その時の教えた先輩たちがやさしくしてくれたおかげで、ゴルフを好きになることが出来て今に至っています。

一方私の同期で違う部署の人ははじめてのゴルフで一緒にラウンドした先輩たちから、厳しくゴルフ道を説かれたために、二度とゴルフはしないという事になってしまいました。

若い世代のゴルフファーには守るべきルールやマナーは最低限しっておく姿勢をもつ、それを教えるベテランゴルファーは相手への思いやりをエチケットとして持ち、接する事が大切かと思います。

今は違うと思っている「感覚」、それがこれからの主流になってきたら、その時は反主流である自分の「感覚」が同じように「これだから古い人たちは・・・」と言われる可能性もあるという事を私たちは認識しておかなければいけないでしょう。

 

【シンプルサービス】

「特に若い現役世代にゴルフをしてもらうためには、いろいろなサービスをそぎ落としてシンプルな形にし、 ~中略~ 特定の年齢層にエッジを立てて訴求するよりも、ユニバーサルサービスとして顧客のニーズのど真ん中を取りにいきたい」

とAG社長。

シンプルサービスについては私も一人のゴルフ場オペレーターとして持論を展開させていただいています。

IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどのハイテクを導入することによって人的サービスをカバーすると考えています。(参照:ゴルフ場のシンプルサービス化について~AIによるスマートオペレーションの可能性~

このインタビューでは、ハイテクによるカバー論ではなく「ユニバーサルサービス」というサービスの再定義について語っているようです。

※「ユニバーサルサービス」とは

一般的には社会全体で均一に維持され、だれもが等しく受益できる公共的なサービスの全般を指し、~中略~ 地域による分け隔てのない便益の提供義務を強調して用いられることが多い。

なるほど、私もゴルフ場におけるサービスとは一般のサービス業とは少し異なり、ゴルフを楽しみにきているお客様にたいして、メインのゴルフを楽しませることに一番ちからを入れるべきであって、もっとシンプルであってもいいと考えています。

それが、これからのゴルファーに受け入れられるのであれば、それはビジネスとして当たり前なのではないかと考えます。

 

【女性目線】

「もともと日本の多くのゴルフ場のクラブハウスは、女性をたくさん受け入れようという施設構造になっていません。~中略~ 女性が快適にプレーできるようなオペレーションの体制は整えていく必要があります。」

とPGM社長。

最近は女性のゴルファーが増えてきています。

しかし、そのような変化にもゴルフ場のハードは対応できていません。

もともと男性に多く楽しまれてきたスポーツであるので、それは仕方がない事でしょう。

トイレや浴室の広さも男性の方が広く作っている、それは来場比率の高い男性に合わせた合理的な判断とも言えます。

ですが、これが時代の変化であり、これから女性の利用者が増えてくるという未来予想がある中で、私たちはこれらに対応していかなければいけません。

クラブハウスも経年劣化で建て替えの時期にくるゴルフ場も増えてきています。

その際には、今のニーズに合わせた設計が必要となってくるでしょう。

「女性にも快適で喜ばれるゴルフ場」がこれから増えてくることでしょう。

 

【最後に】

今回、この両者のインタビュー記事を考察して、共通して感じる事。

  • 業界環境の変化への対応
  • 若年層ゴルファーを主要ターゲットとした戦略
  • スループレーの普及をポイントとしている

でしょうか。

大きくは⓵につきるのですが、進化論からも明らかなように、環境に対応しきるものだけが生き延びるという原則にそった考え方でありましょう。

その具体的な戦術として②③があると感じ取れます。

これからのゴルフ業界は、この2トップが切った舵の方向に向かっていくのではないかと想像する事ができるでしょう。

 

それでは今日も素敵なゴルフライフを!

 

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