ここでは、ゴルフ場に限らずお客様相手の仕事をしている現場でスタッフによくみられる役職別の意識の違いについて、その真相に迫ったことを書かせていただきます。
ゴルフ場では部署ごとに課題も作業も異なっており、多くのスタッフが働いています。
全ての部署に共通して言えることは、お客様の入りに応じてその仕事の質と量とが異なってきます。
全てのスタッフがベクトルを同じくして働けたら、事はスムーズにいくのですが現実はそうではありません。
なぜ、そのようなねじれとも言える現象がおこるのか?
立場の違いとはいえ、現場でのお客様の入りに対する意識は本当に違っているのか?
そのあたりを深堀して考察していきたいと思います。
目次
【きっかけ】
今回の記事のきっかけになったのは、現在私が携わっている、とあるゴルフ場の管理職者から聞かされた言葉がきっかけでした。
「スタッフが『今日はこんなにお客さんが入っていて嫌だね~』と話している」
と。
【原因】
なぜ、サービス業の現場ではこのような現象が見られるのか。
私の経験上、それは
『それぞれの立場による仕事内容と仕事量に対する報酬、目標と成果の違い』
によるものだからだと考えています。
ゴルフ場だけの話でいきますと、先ずはフロント、マスター室、レストラン、ショップにおける、受付と商品の販売、提供、プレー進行に関しては必ず接客を必要とします。
お客様とのコミュニケーションを良好にとり、いかにその日一日を楽しく過ごしてもらうかを意識しながらサービスの提供に努め、自身の持ち場での業務をこなしていきます。
各持ち場ではスタッフがプライドを持ちながら自身の業務を行い、そして持ち場どうしが有機的に連携を取る事で、お客様の動きに合わせて質の高いサービスを提供出来るのです。
※以前お話しした「マルチタスク」ではこれは難しいと考えています。
そしてコース管理や施設管理などの接客は必要としないが、サービス業の現場における商品価値の維持向上を担うセクションではたらくスタッフもいます。
この両方の持ち場において、その日のお客様の入りというのはその日の個人別の仕事の質と量におおきく影響していきます。
お客様が少なければ、気持ちと時間に余裕が出来て、接客の場面でも管理の場面でも質の高い仕事が可能になります。
お客様が多ければ、接客はもちろん、管理の仕事においても、作業ができる時間が限られてしまい、思うような作業工程が組めない事もあります。
どちらが良いかといえば、迷うことなく前者の方になります。
サービス業の現場においては、お客様が少なければ仕事に関しては「量」が少なく「質」が高くなります。
逆にお客様が多いと仕事に関して「量」が大きく「質」が低くなります。
これは、お客様にとってもその日の入りが少なければ、ゴルフはゆったりとプレー出来て、スタッフのサービスレベルも高いとなれば明らかに前者の方が望ましいはずです。
ここまでの説明を聞けば、スタッフとお客さまにとってはその日のお客様の入りが少ない方が正解だという考え方になるかと思います。
しかし、現実は違う事がおこっているのは何故か?
それは、ビジネスとしてのゴルフ場運営という会社側の立場が交差しているからなのです。
会社側からするとどうでしょう?
たくさんお客様を入れてたくさんお金を使ってもらった方が良いのは当然です。
その為の営業努力をするのですが、ここでゴルフ場の営業に関してとても難しい事があります。
ゴルフ場における商品は「ゴルフコース」と「サービス」になるわけですが、
これらの商品価値を高めるための努力よりも先ずは集客を含めたマーケティングに力を注ぐ運営会社が多いのが現実です。
ゴルフ場における商品が比較的不透明な有形物だと思われる中で、商品価値が高いから料金を高くする、それをプロモーションしてたくさんお客様を集める、いわゆる『商品開発とマーケティング』に尽力するのではなく、そこには経費をかけずに料金を安くしてネットで多くのユーザーに販売したり、営業マンを使って集客力を向上させたりしてお客様を多く入れる事に力を入れているのが現実です。
そのような運営側の思想に近いスタッフの順から役職的に高い順番になっています。
すなわち、『商品価値よりも先ずは目先の数字』
現実的には足元の数字が安定しない事には商品価値の向上に目を向ける余裕がないというのが正解かもしれません。
この目先の数値を重視する上席者と商品価値を重視するというよりも商品そのものだとも言い換える事の出来る一般スタッフとでは、仕事への意識は相まみえる事は絶対にないと言えるでしょう。
「立場が変われば考え方も変わる」とよく言われるように、人の認識は状況に応じてある程度変化させることは可能です。
ここで、私があえて「ある程度変化させること」と書かせていただいたのは、現場にいる以上、立場の変化に応じて完全に考え方が変わるわけではないからです。
わたくし自身、ゴルフ場に一般スタッフとして入社して事業所責任者である支配人になる間に、このお客様の入りに対しての認識は変化してきました。
しかし、それは完全にではないと言い切れます。
一般スタッフの時に感じていた「こんなにお客さんが入って嫌だ」という気持ちが100だとすると、支配人になって同じことを感じる度合いは20くらいでした。
これは今考えると悪くない数値かなと感じています。
なぜかというと、
その20でスタッフの気持ちに共鳴できるからなのです。
自分にも20はその気持ちがある以上は、先程のある支配人のように、愚痴をいうスタッフを非難することは出来なかったのです。
おそらくは今回のきっかけとなった現職の支配人も直接本人に注意が出来ないというのは同じような気持ちであるからなのでしょう。
では、認識が100から20になったその差である80は何だったのでしょうか?
それは繰り返しになりますが『それぞれの立場による仕事内容と仕事量に対する報酬、目標と成果の違い』によるものだと考えています。
支配人は一般企業で言うと課長クラスの中間管理職にあたります。
ただし、ゴルフ場の事業所責任者という立場から、その一事業所の業績を含めた全体に対しての責任を負わされています。
そのような立場になると、先ずは来場者数、売上高、利益を向上させることを優先させて考えて行動しなければいけません。
その為にはお客様を多くいれて業績を維持向上させることに尽力して、安定した運営をしてスタッフの雇用も守り、自身は成果を出せば評価されて昇給、昇格のご褒美を受け取ることもできます。
要するに支配人には「お客様を多く入れる事が使命であり自分の生活も豊かになる」という方程式が成り立つのです。
しかも自身はサービスを提供する現場に常に入ることはないので、お客さまを多く入れる事のデメリットを受ける事はスタッフより少なくなります。
一方で一般スタッフにはこの方程式が成り立たない、その日のお客様が多かろうが少なかろうが、ほとんど変わらないと認識されている。
それが両者の認識の違いを産む大きな要因かと考えています。
【対策】
では、そのような認識の違いが生じない為にはどうすればいいのでしょうか?
どうすれば両者のベクトルを同じにする事が出来るようになるのでしょうか?
ヒントは「2019年のコロナ禍」にあるのではないかと考えます。
当時、私はとあるゴルフ場の現職支配人でした。
東京もロックダウンするのではないか?と噂が立ち、みんながステイホームの掛け声の下で、外出を控え、ゴルフ場も一時期は来場者数が激減しました。
そんな中で、スタッフには休業をあてて事業所としての出勤調整をおこない、一部の管理職者のみでの運営をしばらく続けた時期がありました。
そんなある日、いつも「いつもたくさんお客さんが入っているが現場の自分たちは冷や飯を食わされている」なんて愚痴ばかり言っていたスタッフが、「こんな状況になって、初めて気づいた、お客様がこないと自分たちは生活できないんだ、ゴルフ場で働くとはそういう事なんだ」と。
そのスタッフからこの言葉を聞いた時に私は、これまでそのスタッフの愚痴に対して何も言わずにいたことが正解だった、人は他人から何を言われたからではなく、自分自身で感じて自ら考え方を変える事の方がインパクトは強いのだと。
コロナ以降のそのスタッフは愚痴を言わなくなったのはもちろん、これまではやっていなかったマーケティングにも積極的に参加するようになり、今ではチームの中心的役割をになうポジションまで成長しています。
コロナ禍や業績不振による会社倒産などは荒治療だとしても、「ゴルフ場はお客様が来ないと成り立たない、お客様がたくさんいてライブ感が生まれ活気づく」という認識をスタッフが理解して常に意識する事。
そして、それに対する報酬を明確に制度化する事ではないでしょうか?
【提案】
そして、私からのゴルフ場を運営している方への全てのスタッフのベクトルを同じにするための具体的な提案です。
『全てのスタッフの給与体系を業績連動型にする』
スタッフからの不満要因としての一番は「忙しくても暇でも給与は変わらない」ということです。
会社からすると『暇でも業績が悪くても給与を保証してあげている』
スタッフからすると『忙しくても業績が良くても給与が上がらない』
要するに、給与が業績に対して連動していない事が最大の原因なのです、それは責任の所在がどこにあるかにも関係しております。
『業績に対しての責任は会社にありスタッフにはない。』
これは両者の共通認識でしょう。
これが、お互いにデメリットの部分に注目しての不平不満になっているのではないでしょうか。
会社は業績が良ければ恩恵を受ける、悪くてもスタッフは守る。
スタッフは業績が悪くても守られるが、よくても恩恵は受けられない。
このことをしっかりと認識するだけでもそれぞれの立場での不満は緩和されるものと考えますが、もっとインパクトのある対策としては
『全スタッフの給与体系を業績連動型にする』
ようするに役職別の業績に連動して給与が変わる度合いの差を無くせば良いのです!
会社にはいろんな事情を持って、いろんな環境の中で生活している人たちが集まってきます。
出世欲の強い人、夢を持っている人、職場が近いから、時給が良いから、業種が好きだから、自分に合っているから、知り合いに紹介されたから、などなど
それぞれの人がおなじ目標を持ち、おなじ成果基準の中で仕事をするのなら、不満をいう事も少なく、みんなのベクトルを近づける事が可能になるのではないでしょうか?
それでは今日も素敵なゴルフライフを!
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