ここでは、前回ご案内した土地売買に関しての契約書の内容について、契約締結の際に地権者より「契約不適合責任」について、質問を受けたことに関して詳しく説明したいと思います。
先ずは前回紹介した土地の売買契約書の第10条に書かれている事から見直してみましょう。
『不動産売買契約書』
第10条(契約不適合責任)
本物件の種類又は品質に関して契約内容に適合しないものがある場合において、乙(買主)が甲(売主)に対してその不適合を知った時から1年以内にその旨の通知をしたときは、甲は、乙に対して民法560条以下で定める契約不適合責任を負う。
確かに何やら怖い文章となっていますね。
これを読み合わせした時に地権者の方から
「本物件の種類又は品質に関して契約内容に適合しないもの」とは、具体的にはどんなものなの?
と聞かれます。
当然ですね、売主からすればゴルフ場開発の為に自分の所有する土地を貸したり売ったりするのに、その土地の種類や品質が契約内容に適合しない場合があるのか?
と思ってしまいます。
具体的な例としては大きく2つ、
「物件の数」と「土壌汚染」の可能性です。
契約書には必ず、物件目録をつけますので、契約後に「いやここは違う!とか、ここも契約しているはずでは?」とかのトラブルを防ぐために物件目録に明記している土地以外は対象とはなりません。
また、土壌汚染の可能性ですが、こちらはゴルフ場を開発して安全に運営していく事が第一の目的であり、もしそれが発覚した場合には出来る限りこちらで対応していくという事を説明しています。
では、なぜこのような文言が契約書の中にはあるのでしょうか?
そこについて詳しく説明していきます。
目次
【不動産売買契約書を交わす意義】
不動産の売買契約は比較的高額な取引となるためその契約書においては対象不動産の内容や売買条件を含む取り決めや手続き、手順を明文化することが望まれています。
それは
紛争を未然に防止するだけでなく、トラブルが生じた場合の解決方法を定めておくことで売主買主双方が不足の不利益を被る事を事前に防止する事が可能になる事を目的としている
からです。
【契約不適合責任とは】
契約不適合責任とは「売買や賃貸などの目的物が契約目的に合致していない場合」に売主が買主に対して負う責任の事です。
目的物に対しては売主と買主がそれぞれ目的を持って契約を締結します。
しかしながら、
目的物が契約目的に合致していないと買主が不利益を被るので、売主に契約不適合責任が認められます。
【瑕疵担保責任とは】
瑕疵担保責任とは「目的物に傷や欠陥がある場合」に売主などが買主などに対して負う責任の事です。
目的物に欠陥がある場合、そのまま引き渡されると買主は不利益を被ってしまいます。
契約時には見つかっていなかった欠陥が後に見つかった場合、買主は売主へ一定の責任追及ができるとされていました。
なるほど、
目的物に傷や欠陥が有るのか無いのか、目的物が契約の目的に合っているのか合っていないのか。
目的物への考え方から変わったという事ですね。
【契約不適合責任と瑕疵担保責任との違い】
契約不適合責任は2020年4月の民法改正により、新たに導入された制度。
従来の瑕疵担保責任をベースにしており、両者には類似点が多数あります。
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対象物の範囲
従来の瑕疵担保責任では「特定物」(特定が可能で世界に1つしかないもの)であり、不特定物には瑕疵担保責任は適用されていませんでした。
一方、
契約不適合責任では特定物か不特定物かによらず、売買の対象物が契約目的に合致していなければ全てのケースで適用されます。
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何に対応してのものか?
瑕疵担保責任は「法定責任説」に対応して、契約不適合責任は「契約責任説」に対応している。
法定責任説とは、特定物の売買では契約で定められた特定された目的物さえ引き渡せば売主の責任が免除されるという考え方をベースにしており、特定されたものさえ引き渡せば、たとえそれに欠陥があっても売主は義務を果たしたことになってしまう。
それに対して法律によって特別に認めた責任が瑕疵担保責任となります。
一方、
契約不適合責任では引き渡された物件が契約目的に合致しない場合に一般の債務不履行の規定によって処理するという契約責任説の考え方に基づいています。
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買主側の救済手段
瑕疵担保責任では買主は売主に対して「損害賠償請求」と「解除」しかできませんでした。
しかも、「解除」は解約目的を達成できない場合にのみ限定されていました。
現在の契約不適合責任では買主は売主に対して、上記以外に「履行の追完請求」や「代金減額請求」もできるようになりました。
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履行の追完請求
目的物の種類や品質、数量が契約に適合していない場合、買主は売主へ完全なものを引き渡すよう要求できます。
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代金減額請求
買主が売主に対して履行の追完を催告しても相当期間内に売主が対応しない場合や修理が不可能な場合などには、買主は売主へ売買代金を減額するよう請求する事ができます。
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損害賠償請求
履行の追完請求や代金減額請求だけでなく、買主は売主に対して損害賠償請求もできます。
ただし、損害賠償請求をするには売主側に故意や過失が必要となります。
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解除
買主が売主へ履行の追完を催告しても、売主が相当期間内に対応しない場合などには、買主は契約の解除も出来ます。
ただし、契約不適合の程度が契約や取引上の社会通念に照らして軽微な場合、解除までは認められません。
【「隠れた瑕疵」でなくても良くなった】
瑕疵担保責任では、欠陥は「隠れたもの」でなければなりませんでした。
つまり、
契約締結時に、買主が目的物の欠陥について善意無過失でなければなりませんでした。
一方、
契約不適合責任では、買主の善意無過失は不要となります。
買主が欠陥に不注意で気づいていなくても売主の責任を追及できる可能性があります。
【損害賠償に売主の故意過失が必要になった】
従来の瑕疵担保責任では、買主が売主へ損害賠償をする際に売主の故意や過失は不要でした。
契約不適合責任においては、売主に故意や過失が必要となります。
【損害賠償の範囲が広がった】
従来の瑕疵担保責任では、損害賠償の範囲が「信頼利益」にのみ限られていました。
つまり、買主は「契約が有効と信じたことによる損害」しか賠償請求できなかったのです。
一方、契約不適合責任では「履行利益」まで請求できるようになっています。
つまり、買主は売主に対して「契約目的に合致していたら得られたであろう利益」まで請求することが出来ます。
【期間制限の違い】
契約不適合責任と瑕疵担保責任では、期間制限にも違いがあります。
瑕疵担保責任では、買主は瑕疵を知ってから1年以内に売主に対し、責任追及をしなければなりませんでした。
契約不適合責任では、買主は瑕疵を知ってから1年以内に売主に対し、契約不適合の事実を通知すれば足りる事になります。
いかがですか?
瑕疵担保責任より契約不適合責任の方がより買主に対しての救済措置の幅が増えているように受け止められます。
現実的な土地交渉の場面においては、買主であるこちら側からお願いして譲ってもらうスタンスが故に、契約内容についてはあまり厳しい文言も入れたくないというのが本音ですが、過去の様々なトラブルや事例を踏まえて定められた法律には従わないといけないと思います。
以前もお話ししましたが、契約を締結する前に、双方の信頼関係を築き上げる事が重要であり、その上で互いに不測の不利益が発生する事を出来る限り未然に防ぐための契約書になるという事を共通認識になるように努めながら契約締結を行っていきたいと考えています。
それでは今日も素敵なゴルフライフを!
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