ここではゴルフ場の運営(オペレーション)について私の経験から感じている事を忌憚なく述べさせていただいております。
近年ゴルフ場を取り巻く環境は大きく変化しています。
特にコロナ禍以降、レジャーに対する捉え方やその年齢層も変化してきている中で、ゴルフ業界でも時代の流れに対応して変化していく事が求められています。
そんな時勢の中でこれからのサービス業とはどうあるべきか?
顧客満足度(CS)をどう考えるか?従業員満足度(ES)をどう捉えるのか?
そのバランスをどう調和していくのか?
そのあたりを未来予測も合わせて考えてみたいと思います。
目次
ゴルフについて
先ずはこの概念から考えてみたいと思います。
一概にゴルフと言っても、
スポーツ(競技)なのか?レジャー(娯楽)なのか?
それはゴルファーにとって捉え方は様々でしょう。
近年のオリンピックにおいても前回のブラジルリオ大会において、ゴルフが112年ぶりに公式種目になった事はご承知の通り。
私個人の見解としてはゴルフを競技として再認識してもらういい機会でもあったでしょうし、競技人口が増えてきた事に対する世間の評価でもあったと捉えています。
この112年の間にはゴルフがスポーツ競技として発展する事と共に、それだけでは競技人口が増えない事も踏まえて、レジャースポーツとしての敷居を低くする為の業界における企業努力もあったと思えるのです。
今でも、昔ながらの伝統を重んじて、ドレスコードやルールエチケットマナーを重視する方、賭けに興ずる方、アマチュアゴルフファーとして純粋に競技として楽しみながら大会に出場する方、カジュアルに娯楽としてスタイリッシュにゴルフを捉えて楽しんでいる方もいます。
そんな、
楽しみ方の選択肢もゴルフの魅力と共に以前に比べると増えてきていると感じています。
ゴルフ業界について
さて手前味噌ではありますが、私自身はそのようなゴルフ大衆化の為にこれまで20年あまり仕事を通して貢献できたのではないかという自負があります。
私がこの業界に身を投じた2005年夏の国内のゴルフ場運営は不良債権として会員権預託金の償還が履行できず、金融機関からの借入金の返済ができず、民事再生や会社更生法によりそれぞれが生き残りをかけており、まさにゴルフ場REBORNの真っ只中でした。
私が所属していた会社では外資の大きな資金力を背景にそんな自力での再建が難しいゴルフ場を比較的安価で買収し、「新しい理念」(ゴルフの大衆化)のもとで一つ一つのゴルフ場のブラッシュアップをし、企業価値を高めて、その数を増やして、まとまったゴルフ場運営会社として株式上場させキャピタルゲインにより投資家はリターンを得るというスキームでした。
その後、一度は上場したものの、投資案件としての魅力が未だあったのか、それ以降は
敵対的TOBやプロキシーファイト等を経て、上場廃止となり再び一つの投資ファンドの運営になり、また同じように数を増やし、ブラッシュアップをして次のファンドへと身売りをしました。
ファンドが親会社である以上、このスキームは永遠にループするものだと予測されます。
私が在籍していたようなファンドが運営しているゴルフ場は特別で、
ゴルフ場を単独で1コースだけを運営している会社、ゴルフ場の運営だけを専門にしている会社と、そうではなく他業種との複合(例えば総合レジャー産業や建設業をやっていてそのグループ会社等)で経営をしている会社もあります。
今のゴルフ場運営(オペレーション)について
そのようなファンドの投資案件としての会社が運営するゴルフ場なので、当然目線は投資家の方へと向きます。
ゴルフ場運営をいかに収益性の高いものにするべきか?
そのために投資効率の高い資金投下を行い、従来のサービスを見直しシンプルにして少人数でのオペレーションを行えるために、スタッフのマルチタスク化を推進し、更には近隣の人員不足なグループコースへのスタッフ派遣を行うクロスワークという取り組みをしていました。
これらの取り組みは確かに少人数でのサービス提供を可能にして収益性を向上させるためには効果的であり一定の成果(コロナ禍直後の過去最高益)はありました。
しかし、これらの施策の根底にある思想は『ゴルフ場オペレーションにおけるサービススタッフはビギナーでも十分成り立つ』という危険な仮説に基づくものでした。
これらの施策をすすめる人の中には
ゴルフ場に従事するスタッフは「スペシャリスト」ではなく「ゼネラリスト」になりましょう!と音頭をとっているつもりでも、
実情は
「エキスパート」ではなく「ビギナー」がサービスを提供しているというのが現場での現実でした。
マルチタスクでは自分のセクションでの業務に対してプライドを持つ事がなく、浅く広く業務をこなせるスタッフが評価され、もてはやらせる事になります。
結果的にどのような現象が起きているのかと言いますと
・朝ゴルフ場に着き先ずは玄関番はスタッフは居ない。
・シンプルサービスなので自分でキャディバッグを車から降ろし、所定の場所に置くか、自分で運ばなければいけない場合もあります。
・フロントでは自動精算機を推奨しているものの、とにかく安価で導入したシステムゆえにわかりづらく機能が不十分なため結局は窓口に行く事になる。
・そこで受付をしているスタッフはフロント業務専門ではないので、スムースに受付業務が行われない。
・更にフロントにいた同じスタッフがマスター室でもコース内でもレストランでもロッカールームやトイレの清掃現場でも働いている。
「ここのスタッフはよく頑張っているな」と思ってくれる人もいれば、「人の数は足りている?大丈夫?」と感じる人もいるでしょう。
私個人の感想としては、高いお金を支払いゴルフを楽しみに来てくれているお客様に対し、全てのシーンにおいて同じスタッフによる接客をさせてしまっている事に大変申し訳ないという気持ちでいました。
質の高いサービスというものは常に各シーンにおいてそのセクションのエキスパートが配置されていて、そのエキスパートが他のセクションのエキスパートと有機的に連携し合って一人のお客様をスムーズにアテンドする事で実現できます。
感覚としては男性が女性をエスコートしたり自分の大切な家族を介護したりするときの感覚と同じようなものでなければならないと考えています。
シンプルサービスやマルチタスク、クロスワーク等はただ、「今日来たお客様をそつなくさばけば良い」という思想に基づいた施策と言わざるを得ないでしょう。
これからのゴルフ場運営(オペレーション)について
ここからは私見となりますが、ここまでのゴルフ場を取り巻く環境について考えてみたことをもとにこれからはどうあるべきかを考察してみたいと思います。
スペシャリストを育成する
先ずはどんな仕事をするにしても自分の業務には信念とプライドを持って向き合いたいものです。
それが社会的に有益なものであり、社会貢献として自らが実感できるように仕事はしたいと誰もが感じている事でしょう。
仕事に対しての捉え方も人それぞれでしょうが、サービス業であるゴルフ場で働くという事は、先ずはゴルフ場に来場してくれるプレーヤーに快適な一日を過ごしてもらう事が仕事であると常に意識出来ている、そして、それを実感できるような環境を作る事が運営側の責任であると考えています。
その為には
各セクションに配属されたスタッフはその業務に関しては絶対優位性を持ったスペシャリストであるべきです。
浅く広くのマルチタスクプレーヤーでは近い将来ロボットやAIにその役割を奪われる事になるでしょう。
特に
サービス業におけるスペシャリストやエキスパートはその根底に前述したような男性が女性をエスコートしたり大切な家族を介護する時のような気持ちの入った人間らしい暖かさを兼ね備えているもの
なので、それをテクノロジーによってカバーするという事はすぐには実現できないと予測できます。
それともう一つ、
いずれ自分がキャリアアップの為に転職を考えた時、マルチタスクプレーヤーよりもエキスパートやスペシャリストの方が有利になると考えられます。
受け入れる側の企業としては同業種でも異業種でも、「何がどれくらい出来るか」ではなく、「何をどこまで深くやり遂げてきた」のかが注目されるケースが多いと感じるからです。
また優秀な人材を放出するのは企業として痛手かもしれませんが、従業員にとっての自分自身は自分を中心としたドラマの主人公でもあります。
その人のドラマの中で職場環境というものは一つの舞台でしかないのですから、
その舞台では色んな人が演じて育っていく事が最高の舞台だと言えるのではないでしょうか。
もちろん、
適材適所という言葉がある通り、その人に向き不向きがあるでしょうから、そこは客観的に判断した所属長なり上司が本人に提案してあげるべきでしょう。
そうして適材適所でスペシャリストになったスタッフには仕事に対するプライドと熱意が生まれます。
それは仕事をしていて「楽しい」という最高のパフォーマンスを生む状態となり、自然と従業員満足度(ES)も上がります。
マルチプレーヤーはただ単に会社から都合のいいように使われているという感覚にしかなれないものです。
そして、
来場したお客様からすると、各セクションにスペシャリストがいる方が安心感と運営側に対する信頼も生まれてくるものです。
そのスペシャリストとは
常にお客様に対する奉仕の気持ちを忘れずに持っているスタッフなので他のセクションへの伝達や連携にもぬかりがなく、そのお客様のゴルフ場での一日を快適に過ごさせることを可能にします。
結果として顧客満足度(CS)も向上します。
このような理由から、
これからのゴルフ場運営(オペレーション)においてはマルチプレーヤーではなくスペシャリストやエキスパートを多く育てる事が重要であると考えるのです。
施設を汎用性のあるハードウェアにする
テスラモーターの作る車には将来的な完全自律運転機能に対応できるようなハードウェアが既に搭載されていて、インフラが整備された時点でソフトウェアをアップロードするだけで完全自律運転機能が発動できるように設計されているそうです。
これからのゴルフ場のクラブハウスもこのような設計をするべきであると考えます。
新規で開発するゴルフ場はもちろんですが、平成元年あたりに開場したゴルフ場の多くはクラブハウスの老朽化によりリフォームする事が必要とされています。
ここでもあるゴルフ場運営会社ではリノベーションと題しこれからのゴルフスタイルにあわせて簡素化されたシンプルなクラブハウスに次々と安価な内装工事をすすめているところがあります。
しかし思い出してほしいものです、
バブル絶頂期に高単価で低稼働のゴルフ場運営に合わせて作った絢爛豪華なクラブハウスが今は負の遺産として現場では多くの問題を抱えている事を。
その会社では低単価で高稼働の運営に加えてコロナ禍後のショックドクトリンでシンプルサービスへと大きく舵を切った影響で、そんなクラブハウスや顧客動線が多くの問題を表面化させて未だに解決できていないのです。
問題の根底を未解決のままで、今のゴルフスタイルにあわせたというイノベーションを行っているのが、はたして数年後にまた変化したゴルフスタイルに合致しているのでしょうか?
内情はファンドから提示された予算枠を使う事を第一に考えた人たちが言われるままに無駄な工事をしているという話も聞かれます。
これからの世の中はテクノロジーの進化によって生活習慣や景色も大きく変化していくものと予測されます。
そんな中で、
未来を予測してその変化に対応できるハードウェアを今のうちに設置していくゴルフ場がこれからの勝ち組になる
と私は推測しています。
具体的にどんな機能が候補としてあるのかはまた別な機会に詳しくお話したいと思います。
全てのステークホルダー(利害関係者)と共に発展させる
ゴルフ場運営(オペレーション)におけるステークホルダー(利害関係者)は大きく5つあると言えます。
- 従業員
- メンバー(クラブ理事や委員)
- 株主又はオーナー
- 地域社会(住民)
- 取引業者
ゴルフ場には運営と経営との分離という特徴があります。
全てビジターで運営しているパブリックコースなら会社側でなんでも決めてしまえばいいのですが、メンバーシップ(会員制)となるとそうはいきません。
何かをするにも様々な人の思惑が絡み合って弊害が生まれてくるものです。
私自身もこれまでこの問題については大変苦労していきました。
将来的にはブロックチェーンのようなスマートコントラクトによるゴルフ場運営(オペレーション)が主流になると予測できますが、今は未だ現実的ではないでしょう。
重要なのはパワーバランスです、
今の段階で最も理想とする運営形態といえるのは、カリスマ性があり強烈な指導力のあるワンオーナーの会社でゴルフ場運営(オペレーション)をする事
ではないでしょうか?
その方が全てのステークホルダーのベクトルを同じにしやすいと考えるのです。
ゴルフダイバーシティの実現
これは冒頭でお伝えした通り、現代のゴルフに対する捉え方は様々です。
特にコロナ禍以降に誕生した若年層による新規ゴルファーのゴルフに対する認識はこれまでの俗にいうゴルフ道というものとは正反対のものでしょう。
中には競技指向の強い若いゴルファーもいますが、これからのゴルフ場はどちらにも対応できるように施設もプレースタイルもコースセッティングも変化させていく事が必要だと考えます。
これも具体的な案としては別の機会に詳しくお話したいと思います。
無双ゴルフ場を目指す
これは、私がこれから新規のゴルフ場開発に携わる事を知った人から提案された事が理由となっています。
既存のゴルフ場では難しい事ですが、一から開発していくのであればゴルフプレー以外の価値観を加えた施設を作る事で他コースとの差別化を図るというものです。
これも具体的な案としては別の機会に詳しくお話したいと思います。
最後に
いかがでしょうか?
これからのゴルフ場運営(オペレーション)についてこうあるべきだとの意見を述べさせていただきました。
私個人的にはこれから新規でゴルフ場を開発する仕事に従事する事からこのタイミングでこのような記事をアップさせていただきました。
今後は開発に関しての詳しいお話が出来るかと思います。
その都度、発信していきたいと考えております。
それでは今日も素敵なゴルフライフを!
※この記事で言う「マルチプレーヤー」とはゴルフ場における各セクションを渡り歩いて浅く広く業務をこなすだけのビギナークラスのスタッフの事を意味しています。大谷翔平選手のような複数のポジションをスペシャリストとしてこなすような一部のスーパーマルチプレーヤーのようなイメージではありません。
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