ここでは、最近自動芝刈り機の現状についてのあるメーカーさん(以降A社と呼ぶ)のプレゼンに参加する機会がありましたので、その時の感想を書いています。
将来のゴルフ場運営をイメージするとき、コース管理作業におけるオートメーション化は大きなウェイトを占めています。
ゴルフ場に係わるIT企業の最先端を突っ走るA社はこれまでもこれからも進化を続けていくだろうという期待を持てるプレゼンでした。
目次
A社のすばらしいところ
今回のプレゼンを見て私の思うA社の素晴らしいところは、『着目した時期』、『諦めない姿勢』、『常に進化を求めている』この3つになります。
『着目した時期』
A社がこの自動芝刈り機の開発に着手したのは今から24年前の2000年、開発当初は
ゴルフ場管理コストの中でも最もコストのかかるグリーン刈り作業の自動化を行うべく試験を重ねていたそうです。
その後、業界関係者、芝刈り機メーカーとの協議の中で、自動化メリットの活かされる大規模面積を管理する機械への搭載が望まれ、
グリーンで求められる精度はそのまま維持し、現在のフェアウェイモアへの搭載に至っているとの事です。
2000年というと「2000年問題」が一時期話題になった年で、ノストラダムスの大予言やコンピューターによる不具合が生じる可能性があるとか、きりの良い数字なだけになにかと時代が変わるような雰囲気が感じられた時期でした。
結果的には大きな変化は一般的には感じる事もなく、普段通りの生活をしていた記憶があります。
その頃の私個人も、まだこのゴルフ場業界にも入っておらず、ニートのような生活を送っていたような時期でした。
生産年齢人口の減少による人手不足の気配は感じていたものの、今ほど深刻ではなかったように感じていました。
そんな時期に
A社はいち早く芝刈り作業における自動化を考え、将来訪れるだろう人手不足への準備としても開発に着手していた
ところに「未来予測」の精度の高さを感じるのです。
もしこれが、今の時期から発想して開発をしようとしていたら、今の完成度までは到達していなかっただろうと考えるのです。
実際のところは、将来の人手不足を予測して開発をすすめていたのか?たまたま時期が重なり、人手不足という問題が表面化して、自動芝刈り機の需要が注目されているのかは定かではありませんが、いいタイミングであった事は間違いないと言えるのではないでしょうか。
『諦めない姿勢』
私の知っている自動芝刈り機に関する他社(以降B社と呼ぶ)の取り組みを話しておきましょう。
B社はある外資系ファンドの運営する会社で、当時の役員がある発動機メーカーの社外取締役も兼任している関係で、共同でゴルフ場コース管理における自動芝刈り機の開発を手掛けて試験を繰り返していました。
B社は慢性的な人手不足の問題を抱えており、その解決策としてこの開発に注目していたようです。
そんな中、夜間の試験運転中に自動芝刈り機がコース内の池に転落しました。
それを知った当時の経営陣は直ぐにこの開発を諦めたというのです。
理由は、外資系投資ファンドの傘下であるがゆえに、合理的かつ速やかに結果を出さない取り組みにおいては価値を見出せなかったからだと推察されるのです。
そこには何が何でも成功させてやろう!いつかは必ずできる日が来る!という開発に最も必要な『信念』が無かったのだと思うのです。
資金的な事もあるのでしょうが、
企業が投資するという事は人々の未来を創る事になる
という思想がA社にはあったのでしょう、だからこそ同じような失敗も繰り返しながら、現状のクオリティまで到達する事が出来たのだと感じるのです。
『常に進化を求めている』
プレゼンの中で今後の戦略も聞かれました。
自動芝刈り機を作るにあたり、
A社はOEMで他社の車体と他社のエンジンを搭載した本体に自社のコントロール部分を採用しています。
今後はそのコントロール部分を更に多くの自動芝刈り機の心臓部として採用してもらえるように進化発展させていきたいとの事でした。
この話を聞いた時に同じようなソフト戦略で成功を収めている企業の事をイメージしました。
A社の今後の益々の進化発展を楽しみにしていきたいと思います。
プレゼンと実機の見学を終えて
さて、ここからは自称ジンギュラリタンの私の今回のプレゼンと実機の見学を終えての率直な感想を述べさせてもらいたいと思います。
多少辛辣な言い方にもなるかもしれませんが、現状を私の率直な感想としては
『これは自動であり、自律ではない』
という事です。
(自動芝刈り機のシステム)
・今回のシステムを詳しく聞いてみると、先ずはコースの形状や状態を精密にデータ化。
・フェアウェイの芝刈り作業をするルートを正確にプログラミング。
・GPSを使い、芝刈り機の位置を正確に把握しながらプログラム通りの走行をさせる。
・そうする事で人間がするそれとは異なり、常に一定の仕上がりとクオリティが維持できるとの事です。
A社はこれを従来の「人並み」ではなく「人間技を凌駕する」と表現していました。
これにはまだ少し弱点があり、
衛星との通信がうまく出来ないような場所(例えば林帯部分)に入ると正確に誘導できないので、そのばあいはカート道路などに埋設させたケーブルを利用して電磁誘導で次の目的地まで誘導するとの事でした。
ここまで聞いて、テスラや中国企業が取り組んでいる普通車のFSD(フルセルフドライビング、完全自律運転)技術と比較した考えが浮かんできました。
自動車業界が研究を重ねているシステムは大きく2つに分かれていて、一つは「ジオメトリー方式」、もう一つは「ビジョン方式」といものです。
詳しくは下記の動画を見てみて下さい。大変勉強になります。
このうち、今回の芝刈り機は「ジオメトリー方式」の発想に基づくもので、一般車に例えると、常に一定のルートを運行する事が必要とされる定期運行バスや電車のような動きであると考える事ができます。
この方式に一つ欠けているものはAIを駆使した自律学習機能です。
機械にあって人間にないもの、人間にあって機械にないもの。
人間特有の知能的な活動、これが今回のシステムには欠落している大きなものだと感じました。
(人間技とは)
ここで、人間技という事について考えてみたいのです。
常に同じルートを走行する、常に同じクオリティで物を作っていく、というように一定の割合で作業をするという事は人間よりも機械の方が優れている事は明確です。
機械は人間とは違い「休まない」「疲れない」「不満を言わない」ところがメリットと言えるでしょう。
今回の芝刈り機はこのメリットを活かしたものとして完成度は高いと評価できるでしょう。
しかし、人間には機械と違い「考える」「学習する」「進化する」というステップがあります。
この「機能」が今回の芝刈り機には搭載されていない気が大きくするのです。
作業中にマンホールやグレーチングなどの障害物がある場所では減速したり刈刃を収めたりするなどの状況を判断して対応する事はできるようですが、そこで人間のように最善の策を講じて行動する事にまでは至っていないようです。
それが出来て初めて「自律」して作業をしているという事になるのではないでしょうか?
プレゼンの中で何度も「技術を習得した職人は必要ない」「誰でもがスマホ一つあれば出来る」との話がありましたが、その部分には同意できませんでした。
もし今回の芝刈り機が「ビジョン方式」を採用しており、AIが搭載されていて作業を繰り返す度に学習し、進化していく。それを24時間365日休まず出来るのなら、先程の「技術を習得した職人は必要ない」「人間技を凌駕する」と言えるのだと思います。
ひとつ、とても共鳴できたのが、
「フェアウェイ作業は機械にまかせて、余った時間をラフ刈に使う」
という事でした。
これは将来、
機械化が進み、いまの人間がする作業のほとんどを機械がするようになったときに、人間はあふれるのではなく、まだ機械には出来ない、人間にしかできない事をする。
もしくは
創造していく。そうする事で人間自身も進化していく。
シンギュラリティとは「人工知能が人間を凌駕する時」と解釈されていますが、その時が人間としての再出発点、「新しい時代に対応できる人間への進化」と認識するべきではないでしょうか?
ダーウィンの進化論しかり「強いものが生き残るのではなく、変化に対応できるものが生き残っていく」
そうしてこれまで人間は生き残ってきた。
私たちはその変化を一度は乗り越えたと思っているかもしれませんが、
これからもう一度そのような変化(AIが起こすであろう変化)が来ると思うのです。
それを乗り越えるための準備をこれからしていかなければいけないと強く思うのです。
それでは今日も素敵なゴルフライフを!
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